P06 わたしの研究  67 テーマ  不登校・引きこもり支援と スクールソーシャルワーク 本研究所嘱託研究員 工藤 歩 (児童福祉・スクールソーシャルワーク) ご挨拶とスクールソーシャルワーク研究の契機  2022年度より社会福祉学部ライフ・ウェルネス学科に特任講師として赴任してまいりました工藤歩(くどうあゆむ)と申します。よろしくお願いいたします。今回は私の研究と教育の経歴について簡単にお話ししていきたいと思います。  私は熊本学園大学の大学生時代に新聞で、当時埼玉県でスクールソーシャルワーカー(以下SSWrとする)をされていた山下英三郎先生の記事を読み、スクールソーシャルワーク(以下「SSW」とする)に関心を持ち、そこからSSWの理論とそれを用いた支援について研究を続けて参りました。SSWの研究では子どもの問題の中でも特に不登校や引きこもりの問題にその焦点を置き、理論構築や人材養成の観点からの研究を進めていきました。更に近年では子どもの貧困問題や子ども・家族の包括的支援などにその研究対象を広げていっています。 実習担当助教として全国を渡り歩く日々  大学院を修了してからは全国各地の専門学校や大学・短大で教鞭を取ることとなりました。 兵庫の関西福祉大学に在籍中は、その頃先駆的取り組みだった赤穂市のSSW事業を間近で体験し多くのことを学ばせていただきました。  次に沖縄の沖縄大学に赴任しました。沖縄ではいわゆる「子どもの貧困」と呼ばれる現状をたくさん目にすることとなりました。子どもの貧困は大人の貧困問題でもあり、そこで子どもとそれを取り巻く家族を含めた支援について考えるようなりました。  この頃から「包括的支援」「伴走型支援」に焦点をあてたSSWについて研究を進めていくようになるとともに、SSWだけでなく貧困問題についても研究を進めるようになりました。  また沖縄特有の問題として米軍基地と市民の暮らしの問題があります。ソーシャルワークの命題でもある「差別と抑圧との戦い」の最前線を目の当たりにして「生活者の暮らしを守るソーシャルワーク」という新たな研究にも取り組むようになりました。  一方、沖縄ではSSWとは異なる新たな出会いもありました。当時沖縄大学の学長を務められていた加藤彰彦(野本三吉)先生とのご縁で沖縄で木のおもちゃのイベントを開くことになり、その実行委員を務めることとなりました。そこで木育活動の第一人者である山下功先生や多田千尋東京おもちゃ美術館館長などとの繋がりが出来、新たに「木育」という分野の研究も始めることとなりました。 その後宮崎学園短期大学、島根総合福祉専門学校と渡り歩いた後、病気療養のため職を辞することとなりました。  地元の福岡で1年半ほど病気療養した後、北九州市立大学で非常勤講師の任に就くこととなりました。北九州市立大学では2017年から北九州のNPO法人抱樸が行なっていた厚生労働省社会福祉推進事業のプロジェクトチームに参加し、困窮家庭に対する包括的支援、伴走型支援、それらと連動した地域での学習支援に関する調査研究を行なっていきました。この調査研究を行っていく中で子どもだけ、大人だけでない「家族まるごと」支援の重要性を認識し、若年者(特に生活困窮者)に対する伴走型就労・社会参加支援事業についての研究を進めていくことになりました。  まず2016年には引きこもり状態にある若年者・児童及びスネップ状態にあるものとその家族を支える包摂型世帯支援の構築に関する研究に参加しました。ここでは「引きこもり」「不登校」「スネップ」に関する現状調査やそれらを支援する上での課題や「子ども・家族まるごと支援」の対象や仕組みなどについての研究を進めました。  更に翌年度はこの調査研究の続きとして困窮孤立状態におかれた子どもへの支援とその連鎖を防止するための支援メニュー、ツールの開発に関する研究に参加しました。ここでは「子どもを入り口とした包括的な家族支援」についての先進事例の調査を行ない、それを元にNPO抱樸型の子どもを入り口とした包括的な家族支援「子ども・家族丸ごと支援事業」の検証を行なっていきました。  社会福祉推進事業の最終年度となった2018年度には社会的孤立状態にある中卒スネップ等捕捉することが困難な子どもたちの実態把握に関する調査手法の研究、高校卒業時に家族不在状態にある児童・若者たちへの切れ目のない支援に関する研究、家族ごと孤立状態にある世帯への支援に関する研究を行なっていきました。 現在の研究状況と今度の課題  現在はこれらを踏まえ、以下に焦点をあてた研究を進めています。  まず一点目は木育における「木育おもちゃが子どもに与える可能性と効果について」に関する研究です。林野庁主導の木育推進事業において熊本では多くの活動が行われています。これらを基に木育おもちゃと福祉の関係をまとめていく予定です。  次に二点目としてSSW事業に関する研究、特にSSWrの人材養成に関するフレームワークの検討を進めていきたいと考えています。SSWrの雇用は多くの場合任期制の契約職員扱いとなっており、その労働環境の不安定さが大きな課題となっています。よってそういったSSWrをはじめとした福祉専門職の雇用環境の問題についてもその問題の整理と今後の展望を整理していく予定です。  最後に三点目として不登校・引きこもり支援の一つとしてスネップ問題への支援についての研究を進めています。捕捉が難しい引きこもり者をどう支援に繋げ社会との繋がりを作っていくか、8050問題との関連も視野に入れながら家族もまるごと支援する包括的、伴走的支援の仕組みづくりに向けて現状の整理と今後の課題、支援の枠組みづくりに関して検討を行なっているところです。